2012年09月22日

水色エーテル(黒霧操)

「茜色コンフィチュール」が良かったので、同じく黒霧操さんの前の百合姫コミックス「水色エーテル」も読んでみました。



こちらも「茜色コンフィチュール」と同じく短編集です。初出一覧がないので各作品の正確な出典はわかりませんが、最初の「春待メランコリィ」は百合姫で読んだ記憶があります。


春待メランコリィ

進路のために春から東京に行くことになったいち子を、親友のひと美は明るく笑顔で祝福します。しかし、本心ではいち子と別れたくないひと美は、密かに「春なんて来なければいい」と願うのでした。

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ネガティブな衝動を抑えつつも、夢のために旅立つ親友を精一杯の笑顔で送り出すひと美が切ないです。決して表に出さずに内面世界のみで展開されるちょっと黒い感情は、「茜色コンフィチュール」でも見られるテーマでした。


この胸の花

女の子どうしでありながら恋人の結花と小夜に、結花の祖母・みつはなぜか理解を示します。実はみつもかつて女の子に恋をした経験があったのです。

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結花が主役かと思いきや、その祖母・みつの回想がメインです。正確な時代は不明ですが、親の決めた結婚のために別れるという「花物語」的な展開はなんとなく大正時代をイメージさせます(それだとみつが相当な歳になってしまうので実際は昭和前期くらいかもしれませんが)。

ここでも男との結婚は避けられないものとして描かれており、みつも特別激しく抵抗した様子はありません。運命から安易な方法で逃げずに受け入れたうえで前向きに生きる方法を探すのは、黒霧操さんの百合漫画の主人公たちに共通する強さかもしれません。


ココロペンダント

子供の頃に買ったおそろいのペンダントをずっと付けてきた豊と愛梨。しかしやがて愛梨にも彼氏ができ、豊は愛梨がいつの間にかペンダントを外していることに気が付きます。

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豊は明らかに愛梨に恋しているのですが、愛梨のほうはあくまで親友だと思っているようです。愛梨が豊に言ってくれる「一番好き」に恋愛的な意味はないと知りつつも、それでも愛梨のそばにいられるならと豊は今の関係を続けます。無理な事をして現状より悪くなるくらいなら今のままがいい・・・というのは黒霧操さんの漫画の主人公から共通して感じられる傾向です。


嘘つきミルフィーユ

あかぬけない(と、自分では思っている)女の子の千里は、美人のクラスメイト・葉子に急にやさしくされ始めます。きれいな子に親しくされて悪い気はしなかった千里でしたが、実は葉子の目的は・・・。

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葉子のお目当てが千里の近くにいる男子だったという真相や、千里がそれを知って当てつけのように男子と付き合いだす結末は、とうてい百合とはいえません。この本には男が出てくる話は他にもありますが、主人公が率先して男と付き合いだすのはこれくらいです。しかし、前半の千里が葉子と仲良くなるまでの部分は勘違いとはいえ女の子どうしの恋にも見えるので、一つの苦い思い出を描いた百合漫画・・・といえるのかもしれません。

水色コットン

一緒に音楽のレッスンを受けてきた怜美と空でしたが、空は親の都合で引っ越すことになり、2人は最後の演奏会に臨みます。

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現代が舞台ですが、親の都合(金銭的な問題?)で離れ離れになる展開はなんとなく昔の作品を彷彿とさせます。ここでも他の作品と原因こそ違うものの別離は避けられないものとして描かれています。運命からは逃れられないことを前提として、その中でどう生きるかというのが黒霧操さんの根底のテーマなのかもしれません。

真珠の泪

「人魚の涙」を手に入れれば素敵な恋ができると聞いた美波は、海辺で本物の人魚・さらさと出会います。美波はさらさに涙を流してもらおうと、あの手この手(別に酷いことはしません)を試すのですが・・・。

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涙を流してもらうために一緒に映画を鑑賞するなど、ギャグ要素ちょっと多め。人魚というファンタジーな要素もあって、黒霧操さんの作品としてはかなり明るめの作品のように感じられます。

特筆すべきは、この本の収録作品で唯一、明確なハッピーエンドになっていること。

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友情のままの状態が続くという程度の作品は他にもありますが、明確に恋愛として結ばれたのは「茜色コンフィチュール」と合わせてもこれだけだと思います。ハッピーエンドにして異色。


月の欠片、刹那と永遠

学生時代から恋人の幸子と瑞紀。売れないながらも歌手デビューした幸子を最初は祝福してくれていた瑞紀でしたが、幸子が忙しくなるにつれ、2人の気持ちはすれ違い始めます。

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仕事と恋の間で揺れる恋人達というある意味普遍的なテーマを、月をモチーフにした詩的な表現で描いています。最後はやはり報われない終わり方になっており、2人の恋が上手くいくかどうかよりも、主人公が自分の気持ちにどう折り合いをつけるかに重点が置かれているように見えます。


「茜色コンフィチュール」と同じく、この「水色エーテル」も非常に切ない話が多かったです。

「茜色コンフィチュール」でも明確にハッピーエンドになる話はほとんどありませんでしたが、多くの作品は少なくとも現状維持はできており、直接描かれていない今後の展開に希望を持つことはできました。しかしこの「水色エーテル」ではその程度の希望の余地すら無い話もあり、特に「嘘つきミルフィーユ」に至っては最初から主人公の勘違いで恋でもなんでもありません。

このように報われない話が多いのは、作者の黒霧操さんの価値観の表れなのでしょうか。主人公達が恋人になれるかという結果よりも、相手を想う過程のほうに価値を見出しているということなのかもしれません。必ずしも相手に届かなくても、女の子が女の子のことを想う感情そのものが美しい。「水色エーテル」「茜色コンフィチュール」を通して読んでみて、黒霧操さんはそんなことを描きたかったのではないかと考えさせられました。

水色エーテル (IDコミックス 百合姫コミックス) 茜色コンフィチュール (百合姫コミックス)





posted by trinder at 00:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | コミック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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