2013年08月15日

Kisses, Sighs, and Cherry Blossoms Pink(くちびるためいきさくらいろ英語版)

先日の記事で、森永みるくさんの百合漫画の代表作「Girl Friends」の英語版を紹介しました。私は普段英語の漫画はほとんど読まないのですが、「Girl Friends」は元々大好きな作品ということもあり、言葉の違いも含めて非常に楽しめました。

最近(amazonによると2013年6月4日)になって森永さんのもう一つの代表作である「くちびるためいきさくらいろ」の英語版が発売されたので、今回はこちらを紹介したいと思います。

Kisses, Sighs, and Cherry Blossoms Pink: The Complete Collection

英題は「Kisses, Sighs, and Cherry Blossoms Pink」。「くちびる」をやや意訳気味に「kiss」としている以外は原題にほぼ忠実です。

元となった日本語版はまず一迅社の百合姉妹〜百合姫で連載され、数年の休止を経て双葉社のコミックハイ!で完結した複雑な経緯を持っていました。この英語版は、完全版である双葉社版の全2巻を1冊にまとめた内容となっています。いわゆるペーパーバック仕様なので結構厚いです。

kisssigh1.jpg

日本の単行本の約2倍の厚さですが、2.5冊分入っていた英語版「Girl Friends」よりはちょっと薄いくらい。


表紙の裏には、あらすじと簡単な作品紹介が載っています。以後、私の感覚で日本語訳していきますが正直そこまで英語に詳しくないのでわりと適当ですがあしからず。

kisssigh2.jpg


From Milk Morinaga, the author of the Nwe York Times bestselling manga Girl Friends!

(ニューヨーク・タイムズでベストセラーを記録した「Girl Friends」の森永みるくが贈ります!)

具体的には、ニューヨークタイムズ集計の週間漫画ランキング(ただし日本の作品限定)で8位になったことがあるらしいです。


さて、続いてあらすじの紹介。

When the cherry blossoms bloom it means the start of another school year.

(桜が咲いたら、それは新しい学年の始まり。)

And for the girls at Sakurakai High, it signals the birth of new dreams, fears, and relationships.

(サクラカイ高校の少女達に、新たな夢と不安、そして絆が生まれる予感を伝えます。)

・・・サクラカイ高校?

推測ですが、これはおそらく主人公達が通う学校である「桜海(おうみ)」女子という名前の漢字を読み間違えているものと思われます。

kisssigh5.jpg

何か意図があってあえて名前を変えたのかとも思いましたが、ユニフォームに書かれている学校名は「OUMI」のまま。

kisssigh4.jpg

となると、やはり翻訳した人が読み間違えたのでしょうか。

たしかに日本人でも読めない人がいそうな学校名ですが、双葉社版を確認する限り振り仮名がついているので、プロの翻訳者の方が間違えるとはちょっと考えにくい気もします。もしかして連載版や一迅社版では振り仮名がなくて読み方が不明だったりしたのでしょうか?だとしても上述の通りユニフォームに「OUMI」と書いてあるのでそこで気づきそうな気もしますが・・・。


いきなり不可解な謎に当たってしまいましたが、気を取り直して表紙裏の紹介文の続き。

In this yuri collection, lifelong friends become lovers, the ghosts of old crushes are put to rest, and herts break and are mended.
(この百合作品集では、幼馴染たちは恋人となり、古い片思いの霊は安らぎ、そしてある心は傷つき、そして癒されます。)

「lifelong」は「一生の」という意味ですが、この漫画にそこまで長いスパンの話はないのでここは単に「幼馴染」くらいの意味と思われます。

「crush」は「破壊」の意味を連想しますがやはり収録作にそんな話はないので、「お熱、憧れ」というアメリカスラング的な意味でしょう。

「ghost(幽霊)」にsが付いて複数形になっているのはよくわかりませんが、もしかして個人のことではなく古い恋心のことをghostと呼んでいるのかも。

「mend」は「直す」。


Fourteen stories of love between girls are interspersed throughout this heartfelt adorably illustrated manga omnibus edition.
(このオムニバスには、温かく可愛らしい絵柄による女の子同士のラブストーリーが14本散りばめられています。)

「intersperse」は「ばらまく、点在させる」。
「heartfelt」は「心からの」。


ここまでの時点でも若干難しめの単語が混じっていて不安になりますが、ぶっちゃけこの本で一番難しいのはこの紹介文です。漫画本編はもっと簡単なのでご安心を。


ここから作品の内容に入りますが、今回は第1話を紹介します。


CHAPTER1: NOT FRIENDS ANYMORE
(第1話:もうただの友達じゃない)

日本語版タイトルは「ともだちじゃなくても。」でした。


主人公の奈々は、一緒の高校に進学するはずだった親友の瞳が別の高校に行ってしまうことを電話で告げられます。

kisssigh6.jpg

I'm sorry Nana.
(瞳:ごめんね、奈々。)

I'm not going to Sakurakai, whether I get in or not.
(私は桜海には行かないんだ。受かってても落ちてても。)


瞳と離れ離れになってしまうことに強いショックを受ける奈々。・・・が、これは実は夢。奈々が最近何度も何度も思い出している、過去のある出来事でした。

ここで奈々のモノローグ。

kisssigh7.jpg

I don't know what to do…

(奈々:どうすればいいんだろう)

Even when I'm asleep, I keep thinking about it…
(眠っている間でさえ、思い出してしまう。)

The moment I realized I was losing Hitomi.
(瞳を失うのだと知ってしまった瞬間を。)


ここのモノローグは日本語版とかなり異なっている部分です。

kisssigh8.jpg
日本語版では「ああ… やだな やな夢見ちゃった… 中学の頃の夢」。

日本語版ではまだ冒頭ということもあり漠然としていた「やな」ことの内容が、英語だと「瞳を失ったこと」とかなり特定されています。lose(失う)は友達や家族をなくす際にも使う単語なので深い意味はなさそうですが、まるで以前は瞳が奈々の物だったかのようにも読めるため、ちょっとドキッとする言い方です。


奈々は今の高校でもそれなりに上手くやっているものの、元々大人しかったこともあり、かつての瞳ほどの親友はできません。そんな奈々の憂鬱な気持ちも知らず、クラスメイト達は男子との恋愛の話で盛り上がっています。

今日は「全然知らない男子から告白されたらどうするか」なんてことを話し合っているようです。ポイントは、自分が相手を本当に好きかを確かめる方法。

kisssigh9.jpg

Just imagine the two of you kissing.
(自分と相手の2人がキスするところを想像して。)

If your first reaction is "Eww! Gross!", then you're not into him and you shouldn't even bother.

(自分のリアクションが「うわっ、やだ」だったらあなたがその人を好きになることはないから、悩むだけ無駄ね。)

「gross」は「総計」(GDPのG)の意味を連想してしまいますが、ここでは「ひどい、下品な」という意味の形容詞だと思われます。


On the other hand, if you aren't grossed out, then it could be romance!

(でも反対に嫌じゃなかったら、恋に発展するかもよ!)

こんな話を聞いても、奈々が思い出すのはやっぱり瞳のこと。

A kiss… it wasn't gross… butt…
(奈々:キスか…。 嫌じゃなかったけど… でも…)



そんなモヤモヤした気持ちが続いていた頃の、とある休日。奈々は偶然にも瞳と再会します。

Why does everything reminds me of her?
(どうして何を見ても瞳を思いだすんだろう?)

Why think about her at all?
(どうして瞳の子とばかり考えてしまうんだろう)

We might see each other again…
(もう会わないかもしれないのに・・・)

kisssigh10.jpg


瞳は新しい友達と一緒でした。奈々は行き場のない寂しさに襲われます。ここでまた奈々のモノローグ。

kisssigh16.jpg

I guess it's been easy for Hitomi.
(瞳には簡単なことなんだろうな。)

She's already made new friends.
(もう新しい友達がいるなんて。)

She… she doesn't need me at all.
(瞳は… 瞳はもう私なんていらないんだ。)

ここは日本語版では「そうだよね瞳だったら… 友達なんてすぐできる …私がいなくても」でした。


ですが瞳は、何を思ったか「奈々の家に行く約束があった」と言って友達と別れ、瞳の家にやって来てしまいます。

なんとなく気まずいながらも、普通に振舞おうとする奈々。瞳に「今の高校の制服を見せてほしい」と言われて着替え始めますが、着替える様子をまじまじと見つめる瞳の姿に、奈々はどうしても過去のあの出来事を思い出してしまいます。それは、瞳から特別な感情を抱かれていることに奈々が気づいた瞬間でもありました。

kisssigh11.jpg

I just acted like I didn't notice.
(私は気づいていないふりをした。)

But by ignoring the signs, I hurt Hitomi's feeling.

(でもサインを無視することで、瞳の気持ちを傷つけてしまった。)


瞳は過去に一度、奈々にキスしたことがあったのです。

kisssigh17.jpg

I knew… the moment it happened I know.
(わかってた。それが起こった瞬間、わかったんだ。)

Her trembling fingers. Her misty eyes.
(彼女の震える指先、そしてうるんだ瞳。)

I knew exactly what it all meant.
(それが何を意味するか、完璧にわかってたんだ。)


奈々は、自分が本当の気持ちから逃げていたことに気づきます。

I was scared that if things changed between us… that I would up losing her.
(奈々:私は怖かったんだ。2人の関係が変わってしまうことが。そして瞳を失ってしまうことが。)

I never realized Hitomi's just as scared as I am.
(でも瞳も私と同じように怖かったなんて、気づきもしなかった。)


奈々はもう逃げないと決心し、瞳に会えない時間がどれだけつらかったかをいっきに告白します。

I hate! I hate that I hardly ever see you!
(奈々:嫌なの!こんなに会えないなんて!)


そんな奈々の唇を、突然のキスで塞ぐ瞳。

kisssigh12.jpg


Even if I do that?

(瞳:私がこんなことしても?)

Do you still hate it?
(それでも、私と会えないのは嫌と思える?)

I want to kiss you… and I want to do even more than that.

(奈々にキスしたい。そして、それ以上のことも。)

I want it so bad, Nana.
(もう気持ちが抑えられないの、奈々。)

「bad」は「悪い」という意味を連想してしまいますが、ここでは「ものすごく」という意味のスラング的な用法と思われます。「やばいくらいに」的な。

ここは日本語版では「キスだけじゃなくて…もっと奈々に触りたいって…そんなこと考えてるんだよ私」でした。

kisssigh18.jpg

英語版のほうがより過激な台詞になっているような気がします。

A friend shouldn't feel this way…
(瞳:こんな風に感じるの、友達じゃないよ。)

そんな瞳に、奈々は今度は自分からキスをします。

kisssigh13.jpg

We don't have to be just "friends" anymore.
(奈々:ただの「友達」じゃなくなってもいいよ。)

こうして恐れを越えて本当の気持ちを伝えあった奈々と瞳は、ついに恋人となったのでした。2人の物語は続編へと続いていきます。


というわけで、第1話「ともだちじゃなくても。」を紹介しました。

まだ第1話しか読んでいませんが、全体的に自然かつ読みやすい訳になっているため、そこまで英語に詳しくない私でもスムーズに読むことができました。

「Girl Friends」の時と同じく、恋愛関係の台詞が全体的に過激かつ直接的な表現に言い換えられる傾向があるのも百合的には注目ポイントです。日本語の曖昧なニュアンスはそのまま英語にしたのでは伝わりにくいという言語の違いもあるのかもしれません。そういった違いを探しながら読むのも楽しいです。


なお翻訳を担当しているAnastasia Morenoさんは「Girl Friends」の英語版も担当していました。作品をよく理解したうえで素晴らしい訳を付けてくださっていると思います。

ただ、上述のとおり舞台となる学校名「桜海(おうみ)」がサクラカイになっていたり、ふたご座のはずの奈々が何故かpisces(うお座)になっていたりと正直意図のわからない改変も一部にあります。

kisssigh19.jpg

kisssigh20.jpg

何か意図があって変えたのならそれでもいいのですが、サクラカイ高校のはずなのにユニフォームの文字が「OUMI」のままだったり、Pisces(うお座)のはずなのにイラストが「ふたご」のままだったりと、チェック漏れとも思える部分もあります。

kisssigh21.jpg

もっとも、このへんは特にストーリーに影響を与えるわけではないので、気にする必要のない些細な点だと思います。というかこのレベルの翻訳ができる方が漢字が読めないなどということはありえないと思うのでやはり何か事情があっての変更だったのかもしれません。全体的には、原文を尊重しつつも英語らしくより明確な表現に切り込んだ、非常にレベルの高い訳だと思います。


日本語版の2巻にあった手書きの作者コメントもきっちり収録されているのですが、原文を尊重してわざわざ手書き調になっているといういこだわりよう。

kisssigh14.jpg

縦書きか横書きかといった違いもあるので、言語の違いの比較が特に面白いページでもあります。

kisssigh22.jpg

「罰ゲーム」が「torture(拷問)」と訳されているのがちょっと笑えます。


このように非常に手の込んだ良くできた翻訳版なので、森永みるくさんのファンや百合漫画好きで英語の作品が読みたいという方は是非チェックしてみてください。

Kisses, Sighs, and Cherry Blossoms Pink: The Complete CollectionKisses, Sighs, and Cherry Blossoms Pink: The Complete Collection
Milk Morinaga

Seven Seas 2013-06-04
売り上げランキング : 48977

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

Girl Friends: the Complete Collection 1Girl Friends: the Complete Collection 1
Morinaga Milk

Seven Seas 2012-10-02
売り上げランキング : 65339

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

Girl Friends 2: The Complete CollectionGirl Friends 2: The Complete Collection
Milk Morinaga

Seven Seas 2013-01-08
売り上げランキング : 44647

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


本当は「Girl Friends」含めて全話紹介したいくらいなのですが、本を開きながら英文を一字一句打ち込んでいく作業が思った以上に面倒くさいため、続きは時間がある時にやろうと思います。「Girl Friends」はともかくこの「Kisses, Sighs, and Cherry Blossoms Pink」はオムニバスなので、特に紹介してほしいエピソード等があったらそちらを優先的にやるかもしれません。
 


posted by trinder at 19:35 | Comment(2) | TrackBack(0) | コミック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
丁寧かつ詳細なレビュー、ありがとうございます!大変興味深く読ませていただきました。(^_^)

「桜海」…それは編集側の考えあっての変更だったと思います。

(あくまでも私の推測ですが、アメリカ人は桜の「おう」の読みだと、タイトルの「さくらいろCherry Blossom Pink」の関連付けが分かりづらくなるからあえて日本語のタイトルに合わせて「さくら」に変えたのでは?と思います。)

「うお座」…ぎゃああ、しまった!それは単に私のうっかりミスです。スミマセン!占いとか苦手な女子力ゼロな翻訳家です。以後気をつけます。(汗)

日本語版の漫画はセリフが途切れ途切れでもなんとなく気持ちが伝わるけど、英訳となると、前後の流れを考えつつ、できるだけナチュラルにそして簡潔な文章に仕上げるようにしています。それを踏まえた上で「説明し過ぎない」よう絶妙な線を毎回たどってます。翻訳中、苦労の連発です。(^^;

あと、忘れてはいけない存在はリライターさんです。私のぎこちない訳をよりスムーズに仕上げてくれるいわば「英語のプロ」です。強いて言えば、女子力ゼロの私が訳したセリフをより女の子っぽい表現に磨いてくれています。リライターは偉大です!(>_<)
Posted by モレノ at 2013年11月18日 23:39
翻訳を担当していらっしゃったMorenoさんですね。コメントありがとうございます。

まさかご本人が見てくださるとは思わず、いろいろ生意気なことを書いてしまって申し訳ありません。日本語版からの変更点についていろいろ無粋な突っ込みを入れてしまいましたが、やはりきちんとした意図があってのことだったんですね。翻訳の過程などもわかり、とても勉強になりました。

英語を勉強中の私が言うのもなんですが、「Kisses, Sighs, and Cherry Blossoms Pink」は作品全体を通してとても素晴らしい翻訳がされていたと思います。個人的に森永みるくさんの作品は大好きです。素晴らしい翻訳を付けてくださってありがとうございました。
Posted by trinder(管理人) at 2013年11月19日 09:39
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック